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【感想】介護再編 介護職激減の危機をどう乗り越えるか 武内和久/藤田英明→「介護をあきらめない」介護職員の知られざる真実に共感、介護業界はどのように進むべきか考えさせられる一冊

おすすめ書籍(書評)

目前に迫った2025年には、介護職員が約38万人も不足すると試算されています。

財団法人「介護労働安定センター」が公表している令和元年度の介護労働実態調査によると、「従業員が不足している」と答えた介護事業者は、65.3%であり、不足理由の一つに「離職率が高い」が、18.2%とかなり高い現状です。

介護職の不足に対応できなければ、働き盛りの世代が介護離職することが予測され、人口減少に労働者人口減少が加わり、日本の衰退が加速する可能性が大きくなる事が考えられます。

本書は、そんな介護業界の問題を明確化し、この先この危機をどう乗り越えるべきかを提案しております。

事業者としても労働者としても他人事では無いこの問題についてどのように向き合うべきかを考えさせられます。介護業界にかかわるすべての方に一読していただきたいです。

著者①の武内和久さんとは

1971年4月19日生まれ、福岡県出身。東京大学を卒業後、現在の厚生労働省へ入省。

医療/介護/福祉/子育て/年金/雇用分野を中心にキャリアを積まれ、現在はONE・福岡株式会社の代表取締役

武内和久さんのTwitter→@takefuku2019

著者②の藤田英明さんとは

1975年11月生まれ。東京都出身。明治学院大学卒業後、社会福祉法人に介護職員兼生活相談員として就職。その後事務局長に就任。その他多数の事業を手掛けられる。

株式会社アニスピホールディングス(代表取締役)

一般社団法人グラミン日本(アドバイザリーボード)

医療法人杏林会(理事):神奈川県の総合病院

社団法人サービス管理責任者協会(理事):サービス管理責任者の研修事業など

株式会社トリプルダブリュー(顧問):D-freeという排泄予知デバイスを開発・販売

株式会社東京社中(代表取締役):コンサルティング・マーケティングなど

介護職の不足に対応できなければ日本は衰退する

本書には、介護職の不足に伴い、①「介護難民」の激増、②「介護離職」の激増、③「GDP」の低下、④「可処分所得」の減少、⑤「少子化」の進展⑥「インフラ」の劣化が懸念されるとあります。

介護職員が不足し、働き手が介護離職をすれば結果として、GDPが低下して、社会保障費の負担比率が上がることで、可処分所得が減少し、介護のために結婚ができない若しくは生活の余裕がなくなると子供が産めなくなり、少子化が進展する。また、税収が減れば、インフラが更新できない。

今、正にこうした懸念が現実のものとなるかの岐路に立たされていると感じます。

100%虐待は起きないと言える介護施設は100%存在しない

〈不幸なサイクル〉

①マネジメント経験がない人が施設長に就任する ②施設長の役割が分からない ③スタッフから信任を得られない ④現場のマネジメントができていない ⑤上司からは数字を求められ、部下からは働きやすさを求められる ⑥責任感が強いほどストレスを溜めやすい ⑦退職する

ここは、本当に心当たりがあります。

大手事業者が事業を拡大しているから安心だろうと思っていると、実際はマネジメント経験がほぼ無い方が管理者だったり、スタッフの回転が速く経験が浅い方が責任のある仕事を行っていたり。。。

私も現場から管理側に回ったスタッフの一人として、様々な事業者の方と交流してきましたが、事実こういった環境の中で双方ストレスフルな状態での勤務が行われている方々を多く見てきました。

なぜそんなことが起こりえるのか(一つの要因)

介護保険制度が始まると、「これはいい儲け口が見つかった」とばかりに介護保険社会福祉法人と呼ばれる法人(介護保険事業のみを行う社会福祉法人)が雨後の筍のごとく生まれ、特別養護老人ホームを開設していきました。

こうした状況だったため、人材を育成するとか、ノウハウを蓄積するという概念がないまま時代が進んできたというのが、リアルな社会福祉法人のこれまでの歴史です。

実際、建築系などの企業が介護保険事業に流入して来ております。

高齢者が急増している昨今において、介護系施設に入所することはある種、一般的になりつつあり、その需要の急増が手広い社会福祉法人事業の一助となっている印象も受けます。

この急拡大に「人材」の育成が追い付かないという現状もあるのでしょうか。

採用と定着のノウハウのない介護事業者

介護事業者は求人を出せば出すだけ人がやってきたという時代を長く過ごしてきたため、どうやって人材を確保するかということをあまり考えないでいました。近年は、急に人材に苦労するようになったので、急いで人材採用について工夫しているところです。かつては人をあえて定着させないような事業モデルだったので、その点でも非常に変化しています。

もともと社会福法人は戦後、働き手を失った寡婦や、戦争で傷病者となった人たちの生活支援を行う目的で設立されたそうです。

その為、事業の開始当初はいくらでも人材の確保が出来ていたと。。。

そんな中で、人材育成やノウハウの蓄積を行わずここまで来て、いざ高齢者人口が増えてきた昨今でここまで困窮しているとはなんとも皮肉な話です。

人手不足で介護業界が壊れていく

”黒字倒産”が常態化する

黒字経営でも人材が集まらずに閉鎖せざるを得ない事業所が昨今、出始めています。

これは病院業界も介護業界もそうですが、地方で成功した事業者が首都圏に進出してくるケースが散見されるようになってきました。

しかし、地方で成功していても首都圏ではその経営ノウハウが通じずに非常に苦戦しております。

大きな理由としては①人材の確保 ②地方と比較した経費の膨らみです。

①人材の確保

地方と違い、他業種の仕事の選択肢が多くある首都圏では、人材が他業種に流れてしまい介護事業に参入してくる人材の確保が難しいのです。

また、採用についても現在はハローワークや直接応募などの無料で採用が図れる媒体からの応募は殆どありません。その中で求人広告費用などの採用コストがかかってきます。人材紹介会社であれば、1名採用すると年収の20~35%を支払わなければならずかなり厳しい状況です。

実際に私の知りうる限り、採用が上手くいかなく、施設を開設したけれど1フロアオープンできていないなどの施設もあることも事実です。

②地方と比較した経費の膨らみ

介護保険の報酬は、若干地域による区分の差こそあれ、基本的に報酬は一緒です。

得られる報酬は同じだけれども、施設を新設・維持するための土地や建築費などは地方のほうが安く、首都圏の方が高いため、得られる利益はかなりの差になります。

加えて首都圏の方が人件費も上げなければ採用が上手くいかない所もあり、地方のノウハウで参入してくると痛い目に合う事業者も少なくないです。

3K職場のイメージが定着した介護現場

介護業界で働く介護職のイメージが悪いことが、人材不足に拍車をかけていると本書で述べられております。

メディアで介護業界がいかに劣悪であるかという事が報道された事もあり、そこで強調されたイメージが「きつい」「汚い」「給料が安い」の3Kであり、イメージが定着化されてしまいました。

SNSに救いを求める介護職たち

もっとはっきり言ってしまえば、愚痴のオンパレードといった状況です。たまったストレスのはけ口か、傷をなめあう場として機能している様です。

本書にも、介護現場の苦悩の深さを感じるとあります。

いかに介護現場が過酷な環境にあり、また介護職の方たちがすり減りながら仕事を行っていることが伺えます。

介護はクリエイティブな仕事でもある

介護は多種多様な、ありとあらゆる人生と価値観を背負っている人たちに対して、どのパターンにも適応しながら、ケアをデザインをしていく行動に”知的”な作業です。その対応力と適応性こそが、単なる介護家族とは大きな違いなのです。

介護は認知症になった人や、脳梗塞で意思疎通ができなくなった人と接する仕事です。

利用者の経歴や希望を網羅的に把握し、どのような介護を提供するのがいいのかという仮説を立てて、ケアを提供していきます。そして、結果がどうだったかという振り返りを行い、いわゆるPDCAサイクルを回していくのです。

このように、一人ひとり違ったサービスを提供していかなければなりません。

実は介護職はクリエイティブで奥深くて、人の幸せに直接貢献できる素晴らしい仕事なのです。

介護職自身にも問題はある

介護職に就いた人が離職や転職を繰り返す多くの理由は職員同士の人間関係にあります。

事業者側としては、「働きやすい環境を作れていない」

働く人側は、「こらえ性がない」「意識が低い」「いつでも雇ってもらえると思っている」

というように、事業者と労働者双方に問題があって絡み合っています。

良い職場を作るのは、事業者・労働者双方が協力をして何かを変えていく事が必要であり、決してどちらか一方の責任にしては解決していかないと思います

多くの管理職は、現場で一生懸命働いたことが認められて管理職となっているはずです。労働者の苦労した経験も、管理職の苦労・視点も持ち合わせながら、少しでも良い方向にしたいという気持ちを持っているはずなのです。

現場の職員と管理の職が協力し合えたらとても大きな力となるはずです。

実は給与的に見劣りをしない介護職

3Kのうち「給料が安い」については、解決されつつあることはあまり知られていません。

介護職員処遇改善加算というものが新設されて以降、通常の社会福祉法人では、10年勤務している介護職員は年収約500万円にまで達して来ております。

ここに達していない要因の一つが、転職回数が多いことが一因です。

転職を繰り返す度に、一番下の給与ランクから再スタートするのですから、無理もありません。

業界変革への道筋

ここからは、

どうすれば介護の質が改善されるか

どうすれば介護職の労働環境の問題が解決されるか

です。

普通の業界での当たり前が介護業界では当たり前ではない事が多々あります。破格に高いシステムを営業トークに載せられて漫然と導入していることや、小規模事業者が多いので、人事部というものが無い、キャリアパスなどが無いなどです。

こういった問題の解決方法やAIを介護場面でうまく活用すること、

現場での成果を評価するシステムやインセンティブの考え方、

介護職員・事業者としてのマインドなど、これから先を見据えて、事業者と介護職員の進むべき道筋が本書には書かれております。

是非、ご興味を持っていただいた方は、本書をお手に取っていただければと思います。

本書にある「介護をあきらめない」という言葉はとても力強く聞こえるとともに、現在の危うさも表現しているように感じます。すべての医療・介護従業者に読んでいただきたい良著です。

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