- 「調整」は進んだのか。それとも、再編は別の場所で進んでいるのか。
- 地域医療構想調整会議とは何か
- なぜ地域医療構想が必要になったのか
- 現在の調整状況:数字上は進んでいる
- 自治体資料から見える現実:同じ都道府県内でも状況は違う
- 全国の病床利用率から見ると、ダウンサイジングは避けにくい
- 民間病院が多いから、調整は難しい
- 病床は減らすべきだが、病院は小さくなりすぎてもいけない
- 調整会議が「意見を聞くだけの場」に見えてしまう理由
- 一方で、再編は会議の外側で進んでいる
- 地域医療連携推進法人は解決策になるのか
- 地域、患者、従事者、経営者が幸せになるにはどうすればよいか
- 1. 病床数ではなく、機能で議論する
- 2. 小規模病院を守るのか、医療機能を守るのかを整理する
- 3. 統廃合をタブーにしない
- 4. 従事者の幸せを中心に置く
- 5. 経営者に出口を用意する
- 6. 調整会議を「意見聴取の場」から「実装管理の場」に変える
- まとめ:地域医療構想調整会議は「調整」から「実装」へ
- 参考資料・出典リンク
「調整」は進んだのか。それとも、再編は別の場所で進んでいるのか。
地域医療構想調整会議は、地域の医療提供体制をどう再編していくかを話し合う重要な会議です。
制度上は、将来の医療需要を見据えて、急性期・回復期・慢性期・在宅医療などの役割分担を整理し、地域に必要な医療を持続可能な形で残していくための場です。
しかし、実際に各自治体が公開している地域医療構想調整会議の資料や議事録を読んでいると、少し違う感覚もあります。
それは、
「ここで本当に何かが決まっているのだろうか」
という違和感です。
もちろん、すべての地域がそうだと言うつもりはありません。地域によって会議の運営も、参加者の熱量も、議論の深さも異なります。
ただ、少なくとも一部の地域では、事務局があらかじめ整理した資料や方向性を提示し、会議ではそれに対する意見を聞く。最終的には「確認」「合意」「意見なし」といった形で進んでいく。
そのため、現場から見ると、
「方向性は事前に決まっていて、会議では意見を聞くだけではないか」
という、いわゆる“出来レース感”が生まれやすい構造があります。
ただし、これは単純に行政や会議運営を批判すれば済む話ではありません。
地域医療構想調整会議が扱うテーマは、病床削減、機能転換、統廃合、医師確保、救急医療、在宅医療、介護連携、民間病院の経営判断など、どれも非常に重いものです。
会議の場でゼロから自由討論して、その場で結論を出せるようなテーマではありません。
だからこそ、重要な案件ほど事前調整が必要になる。
事前調整が進むほど、会議は「確認の場」に見えやすくなる。
そして、確認の場に見えるほど、参加者や現場には「意見が本当に反映されるのか」という疑問が残る。
この構造こそが、地域医療構想調整会議の現在地ではないでしょうか。
現在地を一言でいえば、こうです。
地域医療構想調整会議は、対応方針の合意という意味ではかなり進んだ。
しかし、実際に地域の医療提供体制を変えるという意味では、まだ途上にある。
そして、会議の外側では、病院経営の悪化、後継者不在、倒産・休廃業、M&A、大規模医療グループ化による再編が、静かに進み始めている。
今回は、この地域医療構想調整会議の現在地について整理してみます。
地域医療構想調整会議とは何か
まず、地域医療構想調整会議とは何でしょうか。
地域医療構想とは、将来の人口構造や医療需要の変化を見据え、地域に必要な医療提供体制を整備するための仕組みです。
厚生労働省は、地域医療構想について、中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制を確保するものと説明しています。あわせて、各構想区域に設置された地域医療構想調整会議で、医療機関相互の協議を行う仕組みになっています。
出典:厚生労働省「地域医療構想について」
簡単に言えば、地域医療構想調整会議は、
「この地域に、どのような医療機能が、どれくらい必要なのか」
「それを、どの医療機関が担うのか」
を話し合う場です。
ここでいう医療機能とは、たとえば以下のようなものです。
高度急性期。
急性期。
回復期。
慢性期。
在宅医療。
救急医療。
外来医療。
介護との連携。
従来の地域医療構想では、特に病床機能の分化と連携が中心でした。
そのため、病床機能報告という制度が重要になります。
病床機能報告では、一般病床または療養病床を持つ医療機関が、病棟単位で自院の病床機能を報告します。千葉県の公開資料でも、病床機能報告は医療法第30条の13に基づき、一般病床または療養病床を有する医療機関が、病床の機能や入院患者に提供する医療内容などを都道府県に報告する制度だと説明されています。
出典:千葉県「令和6年度病床機能報告の結果について」
ただし、ここで重要なのは、病床機能報告は「医療機関が自ら選んで報告する制度」だという点です。
北海道の公開議事録でも、病床機能報告制度は、医療機関が各病棟の機能を1つ自主的に選択して報告する制度であり、一般病棟入院基本料等を算定している場合には報告に幅が出ると説明されています。そのため、調整会議では、自主的に選択された病床機能だけでなく、平均在棟日数などの定量的基準を用いて整理した資料を共有することがあるとされています。
出典:北海道・地域医療構想調整会議議事録
つまり、病床機能報告の数字だけを見て、
「急性期が多い」
「回復期が足りない」
「慢性期が多い」
と単純に判断することはできません。
報告上の機能と、実際に提供されている医療の中身にはズレがあり得ます。
このズレを、地域の実態に即してどう読み解くか。
そして、地域としてどの機能をどこに残すか。
それを話し合うのが、本来の地域医療構想調整会議です。
なぜ地域医療構想が必要になったのか
地域医療構想が必要になった背景には、人口構造の変化があります。
これまでの地域医療構想は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を一つの節目として進められてきました。
しかし、2025年で問題が終わるわけではありません。
むしろ、これから本格化するのは2040年問題です。
厚生労働省の「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」では、2040年に向けて、医療と介護の複合ニーズを抱える85歳以上の高齢者が増加する一方、生産年齢人口は減少し、医療従事者の確保も難しくなるとされています。また、増加する高齢者救急や在宅医療への対応、人口減少地域でも安心して医療にアクセスできる体制の確保、必要病床数や医療機関機能に着目した連携・再編・集約化が重要になると整理されています。
出典:厚生労働省「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」
ここで大事なのは、地域医療の課題が、単なる「病床数の問題」ではなくなっていることです。
これから問われるのは、病床数だけではありません。
高齢者救急を誰が受けるのか。
手術や高度急性期をどこに集約するのか。
回復期や在宅復帰支援を誰が担うのか。
在宅医療や介護とどう連携するのか。
医師・看護師などの人材をどう確保するのか。
医療従事者の働き方をどう持続可能にするのか。
なお、2040年に向けた介護提供体制や医療・介護連携の課題については、以前の記事「2040年問題に備える介護体制改革:中間とりまとめを読み解く」でも整理しています。地域医療構想は病院だけの話ではなく、在宅医療、介護、人材確保まで含めた地域全体の再設計として考える必要があります。
これらを地域単位で再設計する必要があります。
新たな地域医療構想では、病床機能だけでなく、医療機関機能そのものを明確にしていく方向が示されています。厚生労働省は、急性期拠点機能、高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、専門等機能といった医療機関機能を整理しています。特に急性期拠点機能については、手術や救急医療など医療資源を多く要する症例を集約化して提供するものとされています。
出典:厚生労働省「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」
さらに、急性期拠点機能については、人口の少ない地域では一つを確保・維持し、地方都市型や大都市型では人口20万人から30万人の単位で一つ確保することを基本的な考え方とする、と整理されています。
出典:厚生労働省「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」
この方向性は、かなり重要です。
つまり、これからの地域医療では、すべての病院がフルセットの急性期機能を持つことは難しくなります。
一定の規模を持つ病院に急性期機能を集約し、それ以外の医療機関は高齢者救急、地域急性期、回復期、在宅支援、慢性期、専門機能などを担う。
そうした役割分担が必要になります。
ただし、これは言うほど簡単ではありません。
なぜなら、日本の医療提供体制は、民間病院の比重が非常に大きいからです。
現在の調整状況:数字上は進んでいる
では、地域医療構想調整会議は、現在どこまで進んでいるのでしょうか。
厚生労働省の資料によると、全医療機関の対応方針について、令和5年3月末時点と令和6年3月末時点を比較すると、措置済を含む「合意・検証済」の割合は、医療機関単位で60%から91%へ、病床単位で76%から96%へ増加しています。
出典:厚生労働省「地域医療構想の進捗等について」
この数字だけを見ると、地域医療構想調整会議はかなり進んでいるように見えます。
実際、対応方針の策定や検証は、かなり進みました。
ただし、ここで注意が必要です。
対応方針が合意・検証済であることと、地域の医療提供体制が実際に変わったことは、同じではありません。
会議上で対応方針が合意されても、すぐに病床が減るわけではありません。
急性期から回復期へ機能転換するとされても、職員配置や診療実態がすぐに変わるわけではありません。
統廃合の方向性が見えていても、建物、雇用、医師派遣、住民説明、借入金、経営者の意向などが絡めば、実行には時間がかかります。
地域医療構想調整会議は、数字上の合意という意味では進みました。
しかし、実際の再編、機能転換、統合、役割分担という意味では、まだ途上にあります。
ここを見落とすと、地域医療構想の現在地を見誤ります。
自治体資料から見える現実:同じ都道府県内でも状況は違う
地域医療構想調整会議を深掘りするには、国の資料だけでは不十分です。
各自治体が公開している地域医療構想調整会議の資料を見ると、地域差がかなり具体的に見えてきます。
たとえば、大阪府の資料では、二次医療圏ごとの病床稼働率や入院料別の動きが整理されています。令和6年度の資料では、急性期一般入院料4〜6や急性期一般入院料1〜3から、地域包括医療病棟入院料や地域包括ケア病棟入院料などへの変更予定が多いことが示されています。また、地域医療構想調整会議等で客観的に病床転換の議論を行う必要性も示されています。
出典:大阪府「地域医療構想の取組と進捗状況」
これは、都市部・大都市圏の課題を考えるうえで示唆的です。
都市部では医療機関が多く、急性期機能を持つ病院も多い。
しかし、すべての病院が従来通りの急性期病床を維持できるとは限らない。
そのため、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟など、より高齢者救急・在宅復帰支援に近い機能へ転換していく動きが出てきます。
一方で、北海道の公開議事録では、ある圏域において、2025年の回復期病床の必要数推計が1,613床であるのに対し、最大使用病床数は812床であり、回復期病床が不足していると整理されています。さらに、病床機能報告は医療機関が自主的に選択して報告するため幅が出ることから、定量的基準に沿って整理した資料を調整会議で共有するとされています。
出典:北海道・地域医療構想調整会議議事録
このような広域・人口減少地域では、単純に病床を減らすだけでは不十分です。
急性期病床をどうするか。
回復期病床をどう確保するか。
高齢者救急を誰が受けるか。
在宅復帰をどう支えるか。
医師・看護師をどう確保するか。
医療アクセスをどう守るか。
都市部とは違う難しさがあります。
また、千葉県の資料では、病床機能報告の結果とあわせて、各構想区域で平成31年度に合意された推計方法を用い、「定量的基準に基づく病床機能の推計値」を算定していると説明されています。
出典:千葉県「令和6年度病床機能報告の結果について」
栃木県の資料でも、病床機能報告上の病床数と将来の必要病床数との差異について、入院基本料等による分類や、DPCデータを用いた医療資源投入量による検証が行われています。病床機能報告ほど必要病床数との差異が生じていないことなど、データの特性を踏まえた分析がされています。
出典:栃木県「病床機能報告上の病床数と将来の病床数の必要量との差異の検証」
これらの自治体資料から見えることは明確です。
地域医療構想調整会議では、単に病床機能報告の数字を見ているだけではありません。
病床稼働率。
入院料。
DPCデータ。
医療資源投入量。
救急搬送。
在院日数。
病床機能報告と必要病床数の差異。
地域ごとの医療需要。
医療機関ごとの診療実績。
こうしたデータを使って、より実態に近い議論をしようとしています。
ただし、それでもなお、最後に残るのは意思決定です。
データで見える化することと、実際に病床を減らすこと。
急性期を集約すること。
回復期へ転換すること。
病院を統合すること。
医療機関同士の役割を変えること。
この間には、大きな壁があります。
全国の病床利用率から見ると、ダウンサイジングは避けにくい
地域差が大きいとはいえ、全国データを見ると、病床のダウンサイジングを避けて通ることは難しくなっています。
厚生労働省の令和6年医療施設調査・病院報告によると、2024年の病院全体の病床利用率は77.0%、一般病床は73.3%、療養病床は85.0%でした。一般病床に限れば、全国平均では7割台前半の稼働率です。
出典:厚生労働省「令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
もちろん、病床利用率が低いからといって、すぐに病床を減らせばよいという話ではありません。
救急医療。
災害医療。
感染症対応。
地理的条件。
季節変動。
地域の医療アクセス。
こうした事情を考えれば、一定の余力は必要です。
ただし、恒常的に稼働していない病床を維持し続けることは、経営面でも、人材配置の面でも、地域全体の医療効率の面でも難しくなっています。
医療費全体の持続性という観点からも、病床の多さや長期入院の問題は避けて通れません。この点については、以前の記事「高齢者医療費『原則3割負担』は本当に高齢者いじめなのか」でも、患者負担だけでなく病床再編や長期入院の見直しが必要だと整理しています。
さらに、厚生労働省は2026年4月に「病床数適正化緊急支援事業」を示しています。この事業は、医療需要の変化を踏まえて病床数の適正化を進める医療機関に対し、診療体制の変更や職員雇用などに伴う負担を支援するものです。実施要綱では、削減した病床1床につき410万4千円、休床の場合は1床につき205万2千円を支給するとされています。
出典:厚生労働省「病床数適正化緊急支援事業の実施について」/実施要綱PDF
ここには、地域医療構想の建前と現場の受け止めのズレがあります。
厚生労働省は、地域医療構想について「病床の削減や統廃合ありきではない」と説明しています。
一方で、病床数適正化に対する財政支援も行われている。
そのため現場から見ると、
「結局、病床削減を進めたいのではないか」
と受け止められても不思議ではありません。
ただ、ここで重要なのは、病床削減そのものを目的にしてはいけないということです。
目的は、病床を減らすことではありません。
目的は、地域に必要な医療機能を、持続可能な形で残すことです。
その結果として、稼働していない病床や、将来需要に合わない病床は見直す必要がある。
この順番を間違えると、地域医療構想は単なる削減政策に見えてしまいます。
民間病院が多いから、調整は難しい
地域医療構想調整会議が難しい最大の理由の一つは、日本の医療提供体制が民間主体であることです。
厚生労働省の令和6年医療施設調査では、病院の開設者別施設数を見ると、医療法人が5,626施設で病院総数の69.8%を占め、最も多くなっています。
出典:厚生労働省「令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
また、日医総研のワーキングペーパーでは、日本の医療提供体制は民間主体であり、病院数の8割、病床数の7割、年間救急搬送受入数の6割を民間が担っていると整理されています。
出典:日医総研ワーキングペーパー「民間病院の事業承継・M&Aに関する調査研究」
つまり、地域医療構想調整会議で話し合っている相手の多くは、独立した経営主体です。
行政が「この地域では急性期病床を減らしたい」と考えても、民間病院にはそれぞれの経営があります。
病床を減らせば、収益が落ちるかもしれない。
機能転換すれば、職員配置や設備投資が必要になる。
回復期へ転換しても、リハビリ職を確保できるとは限らない。
在宅医療を強化したくても、訪問診療や介護側の受け皿が不足しているかもしれない。
後継者がいない病院では、そもそも中長期計画を描きにくい。
建て替え資金を確保できない病院もある。
借入金や職員雇用の問題もある。
地域全体としては、病床を減らした方がよい。
しかし、自院としては、病床を維持しないと経営が成り立たない。
地域全体としては、急性期を集約した方がよい。
しかし、自院としては、急性期を手放すと病院の存在意義が揺らぐ。
地域全体としては、役割分担が必要。
しかし、どの病院も自院の役割を小さくしたいわけではない。
ここに、地域医療構想調整会議の構造的な難しさがあります。
これは、誰かが悪いという話ではありません。
民間病院が多い地域では、地域全体の最適化と、個別病院の経営判断がズレやすい。
このズレをどう埋めるかが、地域医療構想調整会議の本当の課題です。
病床は減らすべきだが、病院は小さくなりすぎてもいけない
地域医療構想の議論では、病床のダウンサイジングが避けられません。
全国の病床利用率。
将来の人口減少。
医療従事者不足。
病院経営の悪化。
在宅医療や外来医療へのシフト。
これらを考えれば、少なくとも一部の地域では、現在の病床数をそのまま維持することは難しいでしょう。
ただし、病床を減らせばすべてが解決するわけではありません。
むしろ、病院は小さくなりすぎても成り立ちません。
医療には、一定の規模が必要です。
救急対応。
手術。
検査。
リハビリ。
感染対策。
夜間休日体制。
医師・看護師の確保。
若手の教育。
高度医療機器の維持。
医療安全体制。
これらを安定的に維持するには、一定の患者数、一定の職員数、一定の設備投資が必要です。
小規模病院が地域にとって重要であることは間違いありません。
しかし、あまりに小規模で、医師確保が難しく、病床稼働率も低く、設備更新もできない状態では、良質で高度な医療を持続的に提供することは難しくなります。
だからこそ、地域医療に必要なのは、単なる病床削減ではありません。
必要なのは、
機能の集約
病院間の役割分担
一定規模を持つ医療提供体制の維持
です。
どの病院が急性期拠点機能を担うのか。
どの病院が高齢者救急・地域急性期を担うのか。
どの病院が回復期を担うのか。
どの病院が在宅復帰を支えるのか。
どの医療機関が外来、訪問診療、介護連携を担うのか。
この役割分担を曖昧にしたまま病床数だけを議論しても、地域医療は良くなりません。
調整会議が「意見を聞くだけの場」に見えてしまう理由
地域医療構想調整会議に対して、現場では「出来レース感」を覚えることがあります。
事前に方向性が整理されている。
会議では、その方向性に対する意見を聞く。
意見は出るが、方向性が大きく変わるわけではない。
どの意見が反映されたのかも見えにくい。
こうした感覚です。
これは、単純に「行政が形式的に会議を開いている」という話ではありません。
むしろ、重要な案件ほど事前調整なしには会議に出せない、という構造の問題です。
たとえば、病床削減や機能転換は、医療機関の経営に直結します。
統廃合は、職員の雇用や地域住民の安心に直結します。
急性期機能の集約は、救急搬送や医師派遣、病院間の関係性に影響します。
こうしたテーマを、公開の会議でゼロから議論し、その場で結論を出すのは現実的ではありません。
そのため、事前に行政や関係者間で方向性を整理する。
ある程度の合意形成をしたうえで、調整会議に出す。
会議では意見を聞き、確認する。
この流れになりやすい。
北海道の公開議事録でも、基金を活用する病床削減に関する協議について、給付対象と認められるという意見のみであったため確認・合意されたものとする、といった記載が見られます。また、「意見なし」の場合は記載せず、賛成・疑義等があった場合のみ記載するという整理も見られます。
出典:北海道・地域医療構想調整会議議事録
このような運営は、制度としておかしいというより、重いテーマを扱う会議では自然に起こりやすいものです。
ただし、問題は残ります。
意見を聞いたのであれば、どの意見が反映されたのか。
どの意見は反映されなかったのか。
なぜその判断になったのか。
次に何が変わるのか。
誰が実行責任を持つのか。
そこが見えなければ、調整会議は「意見を聞いたことにする場」に見えてしまいます。
地域医療構想調整会議に必要なのは、単なる議事録ではありません。
意思決定プロセスの見える化です。
会議を開いたことではなく、会議後に地域医療がどう変わるのか。
ここまで示されて初めて、調整会議は意味を持ちます。
一方で、再編は会議の外側で進んでいる
地域医療構想調整会議による再編は、ゆっくり進んでいます。
一方で、会議とは別のルートでは、医療機関の再編が進んでいます。
それは、経営破綻、休廃業、後継者不在、M&A、大規模医療グループによる承継です。
福祉医療機構の2024年度病院経営状況に関するリサーチレポートでは、経常利益率はすべての病院類型で低下が続き、一般病院と精神科病院はマイナス値となっています。急性期一般入院料1算定病院では、コロナ補助金終了の影響などもあり、経常利益率が低下したとされています。
出典:福祉医療機構「2024年度 病院の経営状況に関するリサーチレポートについて」
帝国データバンクの調査では、2025年の医療機関の倒産は66件、休廃業・解散は823件で、いずれも過去最多を更新したとされています。倒産や休廃業・解散の背景には、物価高、賃上げによる経営悪化、経営者の高齢化、後継者不在などがあります。
出典:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」
この状況では、地域医療構想調整会議で合意形成を待つ前に、経営上の限界から再編が進む可能性があります。
赤字が続く病院。
後継者のいない病院。
建て替え資金を確保できない病院。
医師や看護師の採用が難しい病院。
単独では将来像を描けない医療法人。
こうした病院が、大規模医療グループや別法人に承継される。
あるいは、医療系ファンドなどが関与して再建や再編を進める。
結果として、地域の病院機能が集約される。
経営管理が効率化される。
人材配置が見直される。
病床や診療科の整理が進む。
これは、ある意味では地域医療構想が目指す機能分化・連携に近い動きでもあります。
ただし、課題もあります。
大規模グループによる再編は、経営効率を高める可能性があります。
一方で、それが本当に地域全体の医療最適化につながるとは限りません。
グループ全体の経営合理性と、地域住民にとって必要な医療は、必ずしも一致しないからです。
採算の悪い機能が縮小されるかもしれない。
地域に必要だが収益性の低い医療が後回しになるかもしれない。
職員の配置転換や雇用条件の変更が起こるかもしれない。
地域の医療機関同士の関係性が変わるかもしれない。
一部のグループに医療資源が集中するかもしれない。
日医総研のワーキングペーパーでも、病院M&A市場では医療系ファンドの存在感がある一方で、M&A支援事業者の質にはばらつきがあり、地域に根ざした承継やM&A支援策として、地域医療連携推進法人へのインセンティブ付与、地域密着型医療ファンド、医業承継バンクなどが提言されています。
出典:日医総研ワーキングペーパー「民間病院の事業承継・M&Aに関する調査研究」
つまり、民間主導の再編は進む。
しかし、それだけで地域医療が最適化されるとは限らない。
ここに、地域医療構想調整会議が本来果たすべき役割があります。
市場が勝手に再編する前に、地域として何を残し、何を集約し、どの機能を誰が担うのかを決める。
それができなければ、再編は「地域の意思」ではなく「経営の限界」によって進むことになります。
地域医療連携推進法人は解決策になるのか
統廃合まではいかなくても、医療機関同士がより深く連携する仕組みとして、地域医療連携推進法人があります。
正式名称は、地域医療連携推進法人です。
これは、地域において良質かつ適切な医療を効率的に提供するため、病院等の業務連携を推進する方針を定め、医療連携推進業務を行う一般社団法人を都道府県知事が認定する制度です。
厚生労働省によると、令和8年1月1日現在、全国で58法人が地域医療連携推進法人として認定されています。
出典:厚生労働省「地域医療連携推進法人制度について」
地域医療連携推進法人は、いわば「緩やかなグループ化」です。
完全な統合ではありません。
各法人の独立性を一定程度残しながら、医療機関同士で連携します。
人材交流。
共同研修。
共同購入。
患者紹介。
機能分担。
在宅・介護連携。
医師派遣。
経営資源の共有。
こうしたことを進めやすくする仕組みです。
これは、地域医療再編の現実的な選択肢になり得ます。
なぜなら、いきなり統廃合しようとすると抵抗が大きいからです。
病院名が消える。
雇用が変わる。
地域住民が不安になる。
経営者が主導権を失う。
医師会や地元政治との関係もある。
こうした現実を考えると、地域医療連携推進法人のような中間的な仕組みは意味があります。
ただし、現状では全国58法人です。
全国に8,000を超える病院があることを考えると、制度として広がってはいるものの、地域医療再編の決定打とまでは言い切れません。
しかも、連携するだけでは、難しい意思決定は先送りされる可能性があります。
どの病床を減らすのか。
どの機能を集約するのか。
どの病院が急性期を担うのか。
どの病院が回復期を担うのか。
どの医療機関が高齢者救急を受けるのか。
採算の悪い機能を誰が担うのか。
ここまで踏み込まなければ、地域医療連携推進法人も「仲良く連携する枠組み」で終わってしまいます。
制度があること自体が重要なのではありません。
その制度によって、地域の医療提供体制が実際に変わるかどうかが重要です。
地域、患者、従事者、経営者が幸せになるにはどうすればよいか
正直に言えば、全員が完全に満足する解はないと思います。
病床を減らせば、困る医療機関があります。
病院を統合すれば、通院距離が伸びる患者がいます。
機能を集約すれば、職員の配置転換が起こります。
小規模病院を残せば、医師確保や経営の問題が続きます。
何も変えなければ、病院経営が悪化し、医療従事者が疲弊し、結果として地域医療そのものが弱っていきます。
だから、目指すべきは「誰も痛みを感じない改革」ではありません。
目指すべきは、
痛みを最小化しながら、地域に必要な医療を持続可能にする改革
です。
そのために必要なのは、次の6つだと思います。
1. 病床数ではなく、機能で議論する
「何床減らすか」だけでは不十分です。
重要なのは、どの医療機関が、どの機能を担うのかです。
急性期拠点機能を誰が担うのか。
高齢者救急・地域急性期を誰が担うのか。
回復期を誰が担うのか。
在宅復帰支援を誰が担うのか。
慢性期を誰が担うのか。
外来、訪問診療、介護連携を誰が担うのか。
病床数の削減は、結果として必要になるかもしれません。
しかし、目的は病床を減らすことではありません。
目的は、地域に必要な医療機能を残すことです。
この順番を間違えると、地域医療構想は単なる削減論になります。
2. 小規模病院を守るのか、医療機能を守るのかを整理する
地域医療の議論では、「病院を守る」という言葉がよく出ます。
しかし、本当に守るべきものは何でしょうか。
病院の建物なのか。
病床数なのか。
救急機能なのか。
外来機能なのか。
在宅支援なのか。
雇用なのか。
住民の安心感なのか。
ここを整理しないと、議論は感情論になります。
すべての病院を現在の形で残すことは難しいかもしれません。
しかし、地域に必要な医療アクセスは守らなければなりません。
「病院を残す」ではなく、
「地域に必要な機能をどう残すか」
という議論に切り替える必要があります。
3. 統廃合をタブーにしない
統廃合という言葉には、どうしてもネガティブな印象があります。
病院がなくなる。
職場がなくなる。
地域が見捨てられる。
そう受け止められやすい。
しかし、統廃合は本来、弱い病院を潰すためのものではありません。
地域に必要な医療を残すために、限られた医療資源を再配置することです。
一定の規模がなければ、救急、手術、検査、リハビリ、人材育成、高度医療は維持しにくい。
小さな病院がそれぞれフルセットで機能を持とうとすると、医師も看護師も分散し、結果としてどの病院も疲弊する可能性があります。
だからこそ、統廃合や機能集約をタブーにしてはいけません。
ただし、統廃合するなら、住民への説明、職員の処遇、患者のアクセス、救急搬送体制、在宅・介護との連携まで含めて設計する必要があります。
4. 従事者の幸せを中心に置く
地域医療構想では、病床数や医療機能の話が中心になります。
しかし、医療を支えているのは人です。
医師。
看護師。
薬剤師。
リハビリ職。
検査技師。
放射線技師。
管理栄養士。
事務職。
介護職。
現場で働く人が疲弊すれば、どれだけ立派な地域医療構想を作っても、医療は維持できません。
新たな地域医療構想でも、医療従事者が持続可能な働き方を確保できる医療提供体制を構築していく必要性が示されています。
出典:厚生労働省「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」
これは非常に重要です。
地域医療の再編は、患者のためだけではなく、従事者のためにも必要です。
夜勤が回らない。
医師が集まらない。
看護師が辞める。
救急当番が維持できない。
若手が育たない。
こうした状態を放置したまま「地域のために頑張れ」と言うのは、もう限界です。
医療従事者が働き続けられる体制を作ることは、地域医療を守ることそのものです。
5. 経営者に出口を用意する
民間病院が多い以上、経営者の視点を無視して地域医療構想は進みません。
後継者がいない。
建て替え資金がない。
医師が採れない。
赤字が続いている。
病床を減らしたいが、職員雇用が不安。
承継したいが、相手が見つからない。
こうした病院に対して、単に「地域のために頑張ってください」と言っても限界があります。
必要なのは、出口です。
病床削減支援。
機能転換支援。
事業承継支援。
地域医療連携推進法人。
公立・公的病院との役割分担。
大規模グループへの承継。
地域密着型の医療ファンド。
医業承継バンク。
どの方法が正しいかは地域によります。
ただ、経営者が前向きに選べる出口を用意しない限り、民間病院の再編は進みません。
6. 調整会議を「意見聴取の場」から「実装管理の場」に変える
地域医療構想調整会議は、今後、単なる意見聴取の場では足りません。
必要なのは、実装管理です。
どの医療機関が、どの機能を担うのか。
どの病床を、いつまでに、どう見直すのか。
どの医療機関が連携するのか。
救急搬送はどう変わるのか。
外来・在宅・介護との接続はどうするのか。
職員の配置転換はどう支えるのか。
患者への説明は誰が担うのか。
進捗をどの指標で見るのか。
これを明確にしなければ、地域医療構想は「合意したことになっている計画」で止まります。
厚生労働省のとりまとめでは、2026年度から2027年度上半期を目途に、構想区域ごとに現状把握、必要病床数の設定、医療機関機能の確保、2040年に向けた課題設定などを行い、2028年度中までに取組の方向性を決定し、2035年を目途に一定の成果を確保するスケジュールが示されています。
出典:厚生労働省「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」
このスケジュールを見ると、これからの地域医療構想調整会議は、単に話し合うだけでは済まされません。
2026年以降、地域ごとにかなり具体的な意思決定が求められます。
まとめ:地域医療構想調整会議は「調整」から「実装」へ
地域医療構想調整会議は、無意味な会議ではありません。
むしろ、地域医療を将来にわたって守るためには、こうした協議の場は必要です。
ただし、現状のままでは限界があります。
病床機能報告を確認する。
医療機関の対応方針を整理する。
資料を説明する。
委員の意見を聞く。
合意・確認済として処理する。
これだけでは、地域医療は変わりません。
数字上は、対応方針の合意・検証はかなり進みました。
しかし、実際の病床削減、機能転換、統廃合、医療機関間の役割分担は、まだこれからです。
一方で、病院経営は悪化しています。
赤字病院は増えています。
医療機関の倒産や休廃業も増えています。
後継者不在の病院や診療所も増えています。
大規模医療グループや医療系ファンドによる承継も進んでいます。
つまり、地域医療の再編は、すでに始まっています。
問題は、それが地域の意思に基づく再編なのか。
それとも、経営破綻や後継者不在に押されて進む受け身の再編なのか。
ここが大きな分かれ目です。
地域医療構想調整会議に求められているのは、
「調整したことにする」ことではありません。
地域に必要な医療を、どう残すか。
どの病院を、どの機能で残すか。
どの病床を、どの機能へ転換するか。
どの医療機関を、どのように連携・統合するか。
患者、従事者、経営者、地域住民にとって、どの選択が最も持続可能なのか。
そこまで踏み込むことです。
地域医療構想調整会議は、これまで「調整」の場でした。
しかし、これからは「実装」の場にならなければなりません。
会議を開いたかではなく、地域医療が実際に変わったか。
これから問われるのは、そこだと思います。
参考資料・出典リンク
・厚生労働省「地域医療構想について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080850.html
・厚生労働省「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001676424.pdf
・厚生労働省「地域医療構想の進捗等について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001272899.pdf
・厚生労働省「令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/24/dl/11gaikyou06.pdf
・厚生労働省「病床数適正化緊急支援事業の実施について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_72383.html
・厚生労働省「病床数適正化緊急支援事業実施要綱」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001688903.pdf
・厚生労働省「地域医療連携推進法人制度について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177753.html
・大阪府「地域医療構想の取組と進捗状況」
https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/127157/01chiikiiryokoso.pdf
・北海道「地域医療構想調整会議 議事録」
https://www.kamikawa.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/1/3/9/2/7/2/7/_/%E8%AD%B0%E4%BA%8B%E9%8C%B2%E3%80%90%E7%A2%BA%E5%AE%9A%E3%80%91.pdf
・千葉県「令和6年度病床機能報告の結果について」
https://www.pref.chiba.lg.jp/kf-awa/shingikai/iryousingikai/documents/07-1siryou4.pdf
・栃木県「病床機能報告上の病床数と将来の病床数の必要量との差異の検証」
https://www.pref.tochigi.lg.jp/e02/documents/ken_5_20240913.pdf
・福祉医療機構「2024年度 病院の経営状況に関するリサーチレポートについて」
https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/pr2554.pdf
・帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260123-iryoukikan2025/
・日医総研「民間病院の事業承継・M&Aに関する調査研究」
https://www.jmari.med.or.jp/wp-content/uploads/2025/07/WP492.pdf

